概要
テラヘルツ波(テラヘルツは、英語で terahertz)とは、電磁波の一種で、周波数がおよそ 0.1~10テラヘルツ(THz) の範囲にある波のことを指します。
周波数にすると非常に高く、電波と光(赤外線)の中間に位置するため、「未開拓の周波数帯(テラヘルツギャップ)」とも呼ばれてきました。
近年、発生技術や検出技術が大きく進歩したことで、テラヘルツ波は
- 非破壊検査
- 医療・生体計測
- セキュリティ
- 通信技術
など、さまざまな分野で注目を集めています。
詳細な説明および原理
テラヘルツ波の位置づけ
まず、電磁波全体の中でのテラヘルツ波の位置を確認してみましょう。
電磁波は、周波数や波長によって次のように分類されます。
- 電波
- マイクロ波
- テラヘルツ波
- 赤外線
- 可視光
- 紫外線
- X線
- ガンマ線
テラヘルツ波は、
- 電波よりも高い周波数
- 赤外線よりも低い周波数
という、ちょうど「間」に存在しています。
周波数と波長の関係
電磁波の周波数 ( f ) と波長 ( λ ) には、次の関係があります。
$$ c = f \lambda $$
ここで、
- c:光速(約 3.0×10^8 m/s)
- f:周波数
- λ:波長
例えば、1テラヘルツ(1THz = 10^12Hz)の波長は、
$$ \lambda = \frac{c}{f} = \frac{3.0 \times 10^8}{1.0 \times 10^{12}} \approx 0.3 \,\mathrm{mm} $$
となり、ミリメートル以下の非常に短い波長であることが分かります。
テラヘルツ波の特徴
テラヘルツ波には、他の電磁波にはない特徴があります。
1. 物質を透過しやすい
テラヘルツ波は、
- 紙
- プラスチック
- 布
- 木材
などを比較的よく透過します。一方で、金属や水には吸収されやすい性質があります。
2. 分子の振動・回転と相互作用する
テラヘルツ波のエネルギーは、多くの分子の
- 回転運動
- 格子振動
と同程度です。そのため、物質固有の吸収スペクトルを観測でき、物質識別に適しています。
3. エネルギーが低く安全性が高い
テラヘルツ波の1光子あたりのエネルギーは、
$$ E = h f $$
( h :プランク定数)で表されますが、X線などと比べると非常に小さく、電離作用を持たないとされています。
このため、生体への影響が比較的少ない点も注目されています。
応用例(具体例)
1. 非破壊検査・品質検査
テラヘルツ波は、内部構造を壊さずに調べる「非破壊検査」に利用されています。
具体例として、
- 半導体デバイスの内部欠陥検査
- 複合材料の層構造チェック
- 医薬品や食品の異物検査
などがあります。
X線を使わずに内部情報を得られる点が大きなメリットです。
2. セキュリティ検査
空港などのセキュリティ分野では、
- 衣服の下に隠された物体の検出
- 危険物質の識別
にテラヘルツ波が活用されています。
テラヘルツ波は布を透過しつつ、金属や特定の物質に反応するため、安全性と検出能力を両立できる技術として期待されています。
3. 医療・生体イメージング
医療分野では、テラヘルツ波の
- 非電離
- 高い感度
という特性を活かし、
- 皮膚がんの診断補助
- 組織中の水分量の測定
などの研究が進められています。
特に、水分量の違いを高感度に検出できる点が強みです。
4. 次世代通信技術
テラヘルツ波は非常に高い周波数を持つため、
- 超高速
- 大容量
の無線通信が可能になります。
将来の 6G通信 では、テラヘルツ帯の利用が有力候補とされており、短距離・超高速通信の実現が期待されています。
まとめ
テラヘルツ波は、
- 電波と光の中間に位置する電磁波
- 物質を透過しつつ、分子情報を捉えられる
- エネルギーが低く、安全性が高い
といった特徴を持つ、非常に魅力的な波です。
これまで技術的な難しさから十分に活用されてきませんでしたが、近年の技術進歩により、
- 非破壊検査
- 医療
- セキュリティ
- 次世代通信
といった分野で急速に研究・実用化が進んでいます。
テラヘルツ波は、まさに「これからの技術を支える電磁波」と言える存在です。
